ブログ|秋田市土崎の歯医者なら、佐藤歯科医院

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2019年9月30日

アメリカの作家ルシア・ベルリンが書いた『掃除婦のための手引書』が今話題になっている。

紺色の帯には次のように記されている。

・・・死後十年を経て「再発見」された作家のはじめての邦訳作品集。

・・・このむきだしの言葉、魂から直接つかみとってきたような言葉を、

   とにかく読んで、揺さぶられてください。(訳者の岸本佐和子さんの言葉)

 1936年アラスカに生まれたルシア・ベルリンは高校教師、掃除婦、電話交換手、看護師などの仕事をして働き20代から自身の体験に根ざした小説を書きはじめた。レイモンド・カーバー、リディア・ディヴィスなどの作家に影響を与えた。本書には24篇が載っているが、仕事がら私が興味をもったのは、ドクターH、A,モイニハンというタイトルの1篇。歯科医の祖父が登場する。

ーふだん祖父は、まず全部の歯を抜いて、歯ぐきの傷がなおるまで待ち、それから歯ぐきの型をとるというやり方をした。新しい歯科医たちが、歯を抜くより前に型を取って義歯を作り、歯ぐきが縮んでしまわないうちに入れる方法をしたので、祖父もまねようとして

自らを実験台にした。血だらけになりながらルシアに全部の歯を抜かせてから、すでにこしらえて用意した入れ歯を口に入れた。

その歯は本物そっくりだった。

 祖父は西テキサス一腕のいい歯医者。もしかしたらテキサス一。みんながそう言った。ダラスやヒューストンからも、えらい人がわざわざやって来た。祖父の作る入れ歯がすばらしかったからだ。祖父の入れ歯はずれず、息ももれず、本物の歯とまるで見分けがつかなかった。秘密の調合の着色料で本物そっくりに色をつけ、ときに欠けや黄ばみ、詰めものやかぶせ物まで再現した。ー

 歯科医の祖父は型とりと人工歯のかみ合わせがたいへん上手だったのだろうと私は思う。型とりの材料は現在のほうがはるかに進歩しているはずなのだが、はたしてそうなのか。時どき疑いたくなることがある。

30年前、私の住む地区でとても入れ歯が上手な歯医者さんがいた。型とりも製作の技工もすべて自分で行っていた。患者さんを待たせることはあっても、患者さんは不満を言わない。入れ歯がぴったし合うからだ。何度かその歯医者さんが作った入れ歯の歯が欠けたと言って修理にきた患者さんがいた。私は修理にとどめた。その入れ歯を超える自信がなかったからだ。それほど上手な入れ歯だった。

入れ歯の型とりの材料にヒントがあるのでは、と当時から思っている。